めふぁにっき

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名前という呪縛

めふぁにっきです。

 

筆名、あだ名、アカウント名、源氏名

一個人が本名以外の名前を持つことはそんなに珍しくはない。

本名以外に名前を持たない人でも、家族や恋人からの呼び方は普段と違うことが多い。

 

日本人は、相手や場面によって名前を使い分け、また名前によってオモテの人格を使い分ける。気を許していない人にいきなりあだ名で呼ばれたらムッとするだろう。

 

あえて相手との距離感を縮めるためにあだ名で呼びかけるテクニックを使う人もいる。

そういえば高校の時、クラスの女子全員を下の名前呼び捨てで呼ぶ同級生がいたのを思い出した。女子とは仲が良さそうだったが別にモテてるわけではなかったな…。

 

水商売に携わる女の子が源氏名を使うのも、単にセキュリティ上の問題以上に、あくまでも客という立場の人間に本名を教えることへの心理的抵抗感が裏側にはある。名前によって「客と嬢」のコミュニティと、「友達」「家族」「彼氏」のコミュニティの間に明確な境界線を引いているのだ。

 

東洋には「諱」「忌み名」と呼ばれる考え方がある。本名を家族や目上の者以外がみだりに呼ぶのは失礼、という考え方だ。詳しくは知らないが、「本名を唱える権利 = 本人の霊的な人格へのアクセス権」という概念が背景にあり、目下の者、見知らぬ者がそこにむやみにアクセスするのは礼を欠いている、ということのようだ。

 

名付けた瞬間に、名前を持つ者と、名前を知る者との間で「その名前であること」の意味を共有する関係性が始まる。これは本名であろうと偽名であろうと変わらない。

 

アーティストの世界はこの点が顕著で、MCネーム、筆名はつけた時点からそのアーティストを演じ続けることを要求され、同じ作風のままで名前を変え続けることは好ましいとされない。

これは「MCネームはよく考えてつけよう問題」とよく言われる。

大学2年くらいの時にふざけてアカウント名を「オフパコマン」にしていたら、初対面の新入生に「あっオフパコマン先輩ですね初めまして」と挨拶されたので速攻で名前を戻した。

MCネームばかり考えて作品を一つも作らないアーティストも問題だが、適当な名前でデビューしてしまい、引っ込みがつかなくなったアーティストも珍しくない。

俺だってフライヤーに「MCオフパコマン」なんて書かれたくない。名前は大事(戒め)。

 

ちなみに江戸時代日本には多作だが多動で名前も30回くらい変えている葛飾北斎というレジェンドアーティストが存在した。

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▲いえじろう

 

話を戻そう。

同じ名前を使い続ける限り、一度関係性が消失しても探し出して再開する可能性が残される。

問題なのは、自分が持っている名前と、本人との間の人格に大きな乖離があった場合だ。

 

コンテンツ力という言い方が一時期流行ったが、要するにSNS上のその名義でどれだけアホなこと、でかいこと、目立つことをやったかの指標だ。

一度本人の人格から乖離した名前を持ってしまうと、本人はそのブランドを守り続けるため、周囲に求められているように振る舞い続けなくてはならない。そしてそう振舞うことで、自分自身が何者か確かめるようになったらもうおしまいだ。

 

バカッターにもそういう側面があるのだろうが、SNSで人気者デビューをしてしまった大学生は少なからずその病理に取り憑かれている。

 

生徒会長や部活の主将、優等生といった高校時代のわかりやすいブランドの守り方が彼らにはもはやできない。だから「新入生の時に○○コスで登校してきた件でバズった××です!今からもっと面白いことをやるのでみんな僕を見てください!」という、バカを上塗りするようなやり方でしか自らをブランディングできない。

 

SNS界隈に発達したものがコンテンツ力に固執したおもしろ一辺倒アカウント。

先輩にそそのかされてマルチまがいなビジネス談義を始めてしまうのが意識高い系である。

 

いずれにせよ、一度名付けて肥大化していく名前のブランドと、本当は何もない空虚な自分自身とのギャップを埋めようとする営みだ。

 

そんな営みも、名前とそれに付随するコミュニティをスパッと切ってしまえば終わりを迎えられる。その証拠に、社会人になると大学生だった頃の営みを皆やめてしまう。

大人になったからではない。一つの名前で繋がれるコミュニティとブランディングが丸ごと消失するからだ。条件さえ整えばまた似たような活動を始める。

 

昔ほど本名に纏わるブランドや意味は少なくなった。今後の時代では自分が自分にどういう名前をつけるか、そしていつ名前を捨てるかを自分で決めなくてはならない。

 

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▲ねこちゃんず