めふぁにっき

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究極かまってちゃん大戦

※この記事は『攻殻機動隊』シリーズのネタバレを含みます。


広告は日々進化している。

古代から広告は存在したが、時代に合わせて変化し、進化してきた。

広告は、販売者や生産者が人の意思決定に介入しようとする試みである。

商品Aだろうが商品Bだろうがどっちでも変わらない意志決定の場において商品Aが選ばれる確率を上げるための操作、それが広告の役割である。


広告は、ありとあらゆる手段で人の気をひこうとする。

べつにプロモーションに関係なくても、人の気が引ければなんでもありなのだ。

美女がビールを飲む広告がある。

おそらくだが、ビールの製造工程にはまったく関わっていない。

だが、ビール単体の画像よりも、美女とビールが写った画像にはより人を惹きつける力がある。だから広告には好ましいもの、望ましいものが積極的に取り入れられる。


かつては多くの人に見られるだけでよかった広告も、近年はさらに複雑に変化してきている。

ハゲにパーマの広告を見せたら無駄撃ちだ。

ハゲにはパーマをかける髪がない。

だから広告は、見せる相手を自ら選ぶように進化した。

おかげでハゲには髪が必要な広告は表示されなくなっていく。

ハゲにはハゲ向けの、OLにはOL向けの広告が表示される。


見てもらっても意思決定に影響がなければ意味がない。

効果のないものは淘汰され、効果のあるものは拡大される。

だから広告は、広告自身の効果(コンバージョン率と呼ばれる)を測定し、自らをより効果的なものにバージョンアップできるように進化した。


これらの変化は、個人が1人1台のデバイススマホ)を保有していることを背景に発展してきた。

時代に合わせて広告は変化する。

その時代特有の環境で、より効果的に人の気を引く方法を編み出していく。


まもなく、対応すべき大きな状況の変化が訪れる。

というより変化はすでに起こりつつある。

広告、テクノロジー、あるいは企業はこの状況に対応しなくてはならない。


リモート環境の進展、1人複数のデバイス持ちが当たり前の環境。

人の意識はよりユビキタス(いつでも、どこでも)な環境に近づきつつある。


このことは、人が何に注意を向けているかの捕捉がより難しくなることを意味する。


家にいるからといってその注意が家にあるとは限らない。仕事をしているかもしれない。

また、1つのデバイスにPVのログが残ったからといって、その広告を見ているとは限らない。仕事用のPCを開きながら別のディスプレイでアニメを見ているかもしれない。

この意味でテレビは大敗を喫した。

お茶の間でテレビをつけていても、その前に座っている人がツイッターにしか注意を向けていなければ、視聴率がどれだけ上がっても広告として本質的に機能しないからだ。

だから広告の次の進化の要件は、「人の意識がどこに向いているか?」の捕捉の精度を上げることだ。

テクノロジーが進歩するほど、広告が直面する問いはより洗練された、本質的な問いに近づいていく。人の注意はどのようにして向けられるのか、そしてどうやったら注意を引き、意志決定に介入できるのか。

この戦いはすでに始まっている。

覇権企業と呼ばれるような大企業は各家庭に格安のセンサーを送り込んでいる。

アレクサやシリといったデバイスが個人や家庭の音を集音し、学習を進める。

これらのデータは、既存のサービスの向上のためにも使用されるが、本当に覇権企業が狙っているのは「個人の注意が把握できる方法と環境」の整備である。


そしてそのような環境が整備された暁には、実現した企業は次の覇権企業となる。

今度こそ確実に国家を凌駕する企業が現れるだろう。

次の環境、すなわち、個人の意識の注意が捕捉できるようになった世界で、争われるのは「個人の注意のリソース」そのものになる。

今映画を見ているとか、どこに居て誰に会っているかということはあまり問題にはならない。マルチタスクが当たり前の世界で、個人の持つ「注意」の総量をどれだけ任意のコンテンツに割かせるかの勝負になる。

具体的にどんな手段が講じられるかは今のところSFの領分だ。


攻殻機動隊というSF作品の中で、個人の「注意」のリソースを独り占めしてしまう映画監督の話が出てくる。

詳細は省くが、攻殻機動隊の描く未来の世界ではほぼすべての人が脳をサイボーグ化し、現実世界で生きながらも、オンラインの世界に接続できる環境を生きている。

このオンライン環境はチャット、TV会議レベルから全感覚レベルまで深さを選べる。

だからこの時代の人々は、常に複数のレイヤーで接続し、マルチタスクを行っている。

現代でも、TV会議しながら他の人にチャットを打つことは可能だろう。


しかしときに、特定のコンテンツに全感覚を奪われ、元の身体に帰ってこれなくなることがある。『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』12話ではそんなコンテンツの話が描かれる。


そのコンテンツとは、ある映画監督が築き上げた映画館である。

この映画館は現実には存在せず、仮想空間の中に存在している。

全感覚で没入できるVR映画館のようなもので、そこでは延々と主の映画監督が制作した映画が上映されている。

悠久の時の中で、映画館に迷い込んだ人々は映画を観て、待合室で映画の感想を語り合う。

あまりにその映画たちが魅力的すぎるばかりに、人々は映画館から去ることを忘れ、元の身体に意識を戻せなくなってしまう。文字通りの人事不省となってしまうわけだ。


この映画館は純粋に映画を作りたい想いでつくられたものであって、広告ではないが、おそらく、人の意識や注意について、この話に示唆されるところは大きい。

すべてがオンラインになり、真の意味でユビキタス社会が実現された時、最後の最後は「人の意識」「人の注意」という有限の資源を奪い合うゲームになるだろう。

かまってちゃんとかまってちゃんが繰り広げる壮絶な競争の中から、ほとんど魔術的に人を魅了する脅威的なコンテンツが生まれてくる。それは時に、現実世界を生きるよりも圧倒的に「リアリティ」のあるものかもしれない。

なぜ現実を生き、そこから自分は何を得るのかよくよく考えておくことは、数十年後に向けた大きな投資になるかもしれない。

Netflix 攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX リンク↓

https://www.netflix.com/title/70213091?s=a&trkid=13747225&t=cp